善き人のためのソナタ

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旧東ドイツで反体制派への監視を大規模に行っていた秘密警察“シュタージ”の実態に焦点を当てたヒューマン・ドラマ。芸術家の監視を命じられた主人公が図らずも監視対象に影響されていく姿を静謐なタッチでリアルに描き出す。監督はこれが長編デビューのフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク1984年、壁崩壊前の東ベルリン。シュタージの局員ヴィースラー大尉はある日、反体制的疑いのある劇作家ドライマンとその同棲相手の舞台女優クリスタを監視し、反体制の証拠を掴むよう命じられるのだったが…。(TSUTAYA DISCAS)

アカデミー賞 2006年  外国語映画賞

LA批評家協会賞 2006年  外国映画賞 


どこへ行ってもみても評判の良い作品でしたので、
多少重いテーマだということを覚悟で、観ることにしました。

たまたま最近【ブラック・ブック】を観ていたので、
ドライマンを演じた“セバスチャン・コッホ”に馴染みがあって幸いでした。


さて、物語は…。
舞台は東ベルリン、時は1984年。
すべては単純な調査の任務から始まります。

国家保安省シュタージの一員であるヴィースラー大尉が、
有名な劇作家ドライマンとその恋人クリスタを監視することになります。
本来、国家レベルであるはずの監視が、
実は一人の大臣の個人的な感情…クリスタへの愛情…だったことから
少しずつ事情が変わっていきます。

ここでいう監視とは、部屋中に盗聴器を仕掛けて、
24時間盗聴し、それをタイプしていくということ。

怖いですね~。
本当にこんなことがあったかと思うと、ぞっとします。

もし自分が…。
なんて考えたら。

そういうことがまかり通る時代であり、国であったんですね。


さまざまな事情から、監視していたヴィースラー大尉の気持ちに変化が起きます。

この変化は、少しずつ、そして着実に表れて行きます。
このあたりは、静かに進んで行きますが、見事です。


プロ中のプロであったはずのヴィースラー大尉が、
なぜ危険を冒してまで変わっていったのか。
それは故意ではなく、自然に、気持の深いところで変わっていったので
止めることができなかったのでしょうか。

それ以前に、止められないところまで流れて行ったんでしょうね。

感情を表に出さないヴィースラー大尉ですが、
少しずつその変化を感じることが出来ます。

素晴らしい俳優さんです。

そしてラストシーン。
憎い演出が待っております。

このシーンのために、すべてがあったのだと感じました。


ヴィースラー大尉だけに集中してしまいましたが、
クリスタの苦悩も切なかったですね。

恋人を愛するか、女優という自分を愛するか、
育ててくれた国家を愛するか。
その選択に迫られるとき、だれもクリスタの選択を非難できないでしょう。


こんな時代やこんな国家があったのだと、
わずか20年ほど前の、近代史を紐解きたい人、
タイトルにどんな意味があるのか興味を持った人、にお勧めいたします。