食堂かたつむり

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同棲していた恋人にすべてを持ち去られ、恋と同時にあまりに多くのものを失った衝撃から、
倫子はさらに声をも失う。
山あいのふるさとに戻った倫子は、小さな食堂を始める。
それは、一日一組のお客様だけをもてなす、決まったメニューのない食堂だった。


巻末に番外編「チョコムーン」収録。


ポプラ社/小川 糸著




映画館で観た予告編。
柴咲コウが主演で、色鮮やかな映像が心をくすぐりました。

 観たいかも…。


そう思った後に、原作本があることを知ったので読んでみました。


予告編を見てしまったので、
主人公の倫子は柴咲コウさんで、おかんは余貴美子さん。
違和感なくふたりの姿で物語が進んで行きました。


失恋して、お金もなくて、故郷に逃げ帰った倫子には、
幸いにも料理を作りという才能がありました。
その才能を生かして、《食堂》を始めることにしたのです。

彼女を支える熊さんと豚のエルメス
彼らとの交流も描かれ、
母親との確執も描かれ、
そうすることで倫子の人柄もより深く描いていきます。

料理する姿勢は、忘れていたものを呼び起こさせます。
命あるものを食することの偉大さ。
食材に向き合って、無駄にせずに料理する姿に、
食事の有りがたさと感謝の気持ちが湧きあがってきます。


大事に育てたエルメスの最期のシーンは、涙で文字が読めませんでした。
なぜそんなに細かに描写しなくてはいけないのか、
駅のホームで読んでいた私は、本を閉じてしまいました。

でも、そこにこの小説のテーマがあったのかもしれません。


食堂かたつむり》に訪れる人々が、
食事後、どうして幸せになれるのか…。

明確な答えが有るわけではないのに、納得してしまうのです。


生きる上で一番大切な“食”を、正面から向き合える作品です。


母親の生きてきた道を絡めながら、
母と娘の確執も、どこにでもある風景として日常的に描かれ、
そして倫子が、食べることを大切に思う心が描かれています。


“死を無駄にしてはダメでしょう”


これを読んでから、一人の食卓で忘れていた
「いただきます」を言うようになりました。

そういうことを思い出させてくれた作品です。