扉をたたく人

イメージ 1初老の大学教授と移民青年との心の交流を描いた感動ヒューマン・ドラマ。妻を亡くして以来、心を閉ざす孤独な男が、ひょんなことから出会ったジャンベアフリンカン・ドラム)奏者との友情を通じて次第に本来の自分らしさを取り戻していく姿を、9.11以降非常に厳格な措置を講ずるようになったアメリカの移民政策を背景に綴る。監督は俳優としても活躍し、これが監督2作目となるトム・マッカーシー。主人公を演じたベテラン俳優リチャード・ジェンキンスは、本作でアカデミー賞主演男優賞ノミネートをはじめ各方面で賞賛された。
 コネティカット州の大学で教鞭を執る62歳の経済学教授ウォルター。愛する妻がこの世を去ってから心を閉ざしたまま孤独に生きてきた彼はある日、学会出席のためニューヨークへ赴く。そして別宅のアパートを訪れると、そこには見ず知らずの若いカップル、シリア出身の移民青年タレクとセネガル出身の恋人ゼイナブが滞在していた。しかし、彼らはこの時はじめて詐欺に遭っていたと知り、グリーンカード(永住許可証)を持たないために警察沙汰などで国外追放になるのを恐れ、素直に去っていく。だが、あてのない2人を見過ごせなかったウォルターは、しばらくの間この部屋に泊めることに。そのやさしさに感激したジャンベ奏者のタレクからジャンベを教えられ、友情を育んでいくウォルター。ジャンベをたたく楽しさを知った彼は再び生きる喜びを見出し、閉じていた心の扉を開いていくのだが…。(allconema)


扉を閉ざしたニューヨーク──
移民の青年との出会いと“ジャンベ”の響きが
孤独な大学教授の心の扉を開く。


2007年 アメリ
原題:THE VISITOR

監督: トム・マッカーシー
脚本: トム・マッカーシー
音楽: ヤン・A・P・カチュマレク
出演: リチャード・ジェンキンス ウォルター・ヴェイル
    ヒアム・アッバス モーナ
    ハーズ・スレイマン タレク
    ダナイ・グリラ ゼイナブ
    マリアン・セルデス マギー・ムーア マイケル・カンプステイ リチャード・カインド




とても静かな時間でした。
ジャンベをたたくシーンもあるのに、それでも印象は静…。

台詞も少ないし、音楽も大音量で鳴ることはありません。

そしてすべてを描いているわけはないので、
台詞や表情の合間を縫って、想像しなくてはいけません。


主人公の大学教授はなぜピアノを習おうとしたのだろう。
自宅で流れるベートーヴェンソナタは何を意味しているのだろう。
NYのアパートは、なぜこんなに長く放置していたんだろう。

無機質な暮らしが一変したのは、ひと組の恋人たちとの出会いでした。
ウォルターのアパートで、不法に暮らしていたタレクとゼイナブ。

米語ではない言葉で会話するふたりを、
最初はもちろん追い出すつもりだったのに、
ウォルターは彼らを引きとめてしまうのです。

そのときウォルターが何を思ったのか…。

タレクと一緒にジャンベをたたくうちに、
その年になって楽器の習得は無理です。と宣言されていたウォルターにとって
楽しくて仕方がなくなるのです。

一緒にやろう。と声をかけてくれるタレクの温かさ。

妻を亡くしたウォルターの、凍ってしまった心が溶け始める瞬間でした。


その後の展開は、アメリカが抱える9.11問題や移民問題など、
とても重く深いものへと進んでいきますが、
それでも静けさは変わりません。


タレクの母親の登場で、さらに心を溶かすウォルター。

温もりを取り戻したウォルターの、
拘置所での叫びと、空港での別れ、には胸が詰まりました。


怒りとも悲しみともとれるラスト。

それでも無関心・無感動で生きるより幸せだと思いたいです。


長さもほどよく、押しつけがありません。
好きな作品です。