赤い指

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どこの家でも起こりうること。だけどそれは我が家じゃないと思っていた。
平凡な家庭で起こった、2日間の悲劇

人は事件の裏側にある別のものを隠し、苦しんでいる。加賀恭一郎は、その苦しみから救済し、人の心を解きほぐす。
「刑事の仕事は、真相を解明すればいいというものではない。いつ、どのようにして解明するか、ということも大切なんだ」




少女の遺体が住宅街で発見された。捜査上に浮かんだ平凡な家族。一体どんな悪夢が彼等を狂わせたのか。「この家には、隠されている真実がある。それはこの家の中で、彼等自身の手によって明かされなければならない」。刑事・加賀恭一郎の謎めいた言葉の意味は? 家族のあり方を問う直木賞受賞後第1作。

赤い指/東野圭吾
講談社文庫



10月の2冊目。
久しぶりに東野氏の作品を選んでみました。


読み始めてしばらくは、加賀恭一郎の姿が見えません。
恭一郎の従弟・松宮が、病床の伯父を見舞うシーンから、
事件が起こる前原昭夫の家庭が描かれて行きます。


殺人事件とは無縁の、ごく普通の家庭でした。

そんな前原に、息子が少女を殺してしまう、という事件が起こったのです。


どうせあたしたちはおしまいよ。あの子を自首させたところで、もうまともに生きていくことなんてできやしない。あたしたちはあの子をあんな風に育てた罪を償わされる。自首させたって、誰もあたしたちを許してなんかくれない。あたしたちは何もかも失うのよ。

妻のその言葉に、前原はある決断をします。


認知症の症状が出ている母親。
ゲームばかりに熱中する息子。
その息子を、甘やかし続けた妻。

前原の決断は、常軌を逸していたかもしれません。

でも、極普通の人間がそんな事件に直面したとき、
それは予想もつかない行動に出るのかもしれません。

そんな怖さを感じながら、母子の愛情を感じます。
形が違っていても、親の深い愛情は変わらない…。


恭一郎の父親との関係も、サイドストーリーとして描かれていますが、
こちらも同じように、深い思いやりを感じることができます。


血のつながりとはこんなにも深く、重いものなのか…。
切なさとともに、たくさんの愛を見ることができる作品です。



読みやすい文体と、設定の分かりやすさ。
単なる犯人探しではないところに惹き込まれる作家さんですね。